AIで日本を強く高齢者支援と消費喚起に役立てよ
人工知能(AI)はこれまでのIT(情報技術)に比べ、音声入力や画像認識、臨機応変な対話などの点で素人にも使い勝手がいいのが特徴だ。
高齢者や一般の消費者をはじめ、技術に詳しくない人もなじみやすい。
口うるさく目利きでもある日本の消費者は、企業の開発力を鍛え質の高いサービスを生んできた。
孤独感の解消にも急速に高齢化が進む「課題先進国」として、高齢者の生活支援などで世界に手本を示す意味は大きい。
行政や企業のサービスをAIで進化させれば、国内の消費市場の活性化につながる。
65歳以上が人口の4割を占める京都府南山城村で、AIによる高齢者の生活支援の実験が進んでいる。
ソフト開発のエルブズ(東京・渋谷)のAI対話システムを使い、タブレット端末から食品を発注したり、バスの運行状況を調べたり、雑談を楽しんだりできるという内容だ。
学習効果によってデータが集まるほど自然で楽しいやりとりが可能になるという。
AIは24時間無休なので、買い物支援だけでなく夜間の孤独感の解消にも役立つ。
行政や店舗は限られた人数で多くの人に対応できるようになる。
人手不足の中、きめ細かいケアが求められる介護への応用も期待される。
コンサルティングのアクセンチュアなどは、要介護者の排尿をセンサーのデータなどから予知し、トイレに連れていくシステムをつくった。
NTTデータはロボットメーカーなどとともに、人と対話できるロボットを使った高齢者の見守りを実験している。
コンピューター相手のコミュニケーションというと定型的で無味乾燥なものを想像しがちだ。
しかし2016年版情報通信白書によれば、AIとの会話の経験者に感想を聞くと40.3%が「便利でよいと思った」と答え、「うまく会話できなかった」の24.2%を上回る。
「賢くてびっくり」「楽しく会話できた」も2割弱いた。
実用段階に入ったといえる。
小売店の店頭や通販では、AIの「お薦め」が新たな消費を生む可能性がある。
ベンチャー企業のカラフル・ボード(東京・渋谷)が開発したソフト「SENSY(センシー)」は、AIが消費者の好みを学び、服や食品を提案する。
紳士服のはるやま商事はこのシステムを導入し、それぞれの客が気に入りそうな商品をダイレクトメールで薦め、来店客を15%増やした。
眼鏡専門店「JINS」を展開するジェイアイエヌは昨秋、試着した眼鏡が似合うかどうかをAIが判断するサービスを始めた。
3000人の店員が6万人分の眼鏡姿をランク付けしたデータを参考に、AIが助言する。
日本ユニシスは昨年末、飲食店予約サイト、ぐるなびのデータをもとに店を推薦するシステムをつくった。
客の年齢や性別は画像から判断し、料理の種類や場所、時間、人数、予算などは対話で聞き出す。
結果を総合し、満足しそうな店を提案する。飲食以外の業界でも使えるソフトだという。
ベテラン社員を代行
消費者の間で節約志向が強まっている。
特に低成長時代に育った若い世代は後悔を恐れ、買い物での冒険を避ける傾向が強い。
AIによる的確な助言をもとに個性的なモノやサービスを選ぶ人が増えれば、企業には商機だ。
販売や接客という場面だけではなく、舞台裏での活用も期待できる。
ネット通販の拡大などで流通業や物流業は人手不足に悩む。
サービスの維持やきめ細かい対応のためにも、AIを活用したい。
宅配便のヤマトホールディングスは客との応答や効率的な配送ルートづくりにAIを使い始めた。
アスクルはAI搭載のピッキングロボットを物流センターに導入、作業効率を向上させている。
ベテラン社員のノウハウもAIが代行し始めた。
牛丼の吉野家ホールディングスはAIによる勤務シフトの作成を研究し、多忙な店長をシフト作成の負担から解放するという。
NECは販売価格の迅速な変更ができるAIを開発した。
自社のシミュレーションでは実在の小売りチェーンの売り上げを11%増やしたという。
人口減と人手不足、社員の高齢化が進むなか、行政や流通の生産性をいかに高めるか。
課題の解決にAIが果たす役割は大きい。